モラルハラスメントー 愛が生んだ悲劇

コース料理を無言で黙々と食べる夫。

とても早いペースでワインを空けていく。

(また機嫌が悪いのかな・・・。)

裕子の嫌な予感は的中した。


『お前さ、うちの会社の連中に色目使って、何がしたいわけ?』

最初に夫が放った言葉だった。

「なんのこと? 私はただ、直哉に指定された場所にいただけじゃない。」

『なんでわざわざそんな派手な格好してくる必要がある?
馬鹿みたいに化粧塗りたくってさぁ。』


派手?馬鹿みたいな化粧?


裕子は常にナチュラルメイクだし、露出をした服を着ているわけでもない。


『水商売女じゃないんだからさ、スカートなんか履くなよな。
いつもジャージでいいんだよ、主婦なんて。』


突っ込みどころが多過ぎて、発言する気にもならなくなった裕子ではあったが、ふと、笑みが零れた。

(ああ、この人またヤキモチ焼いているんだ・・・。それだけ思ってくれてるんだから、嬉しいと思うべきよ。)

「わかった、私が悪かった。 これからはスカート履いたりしないから。
嫌な気持ちにさせて、ごめんね。」


夫はフンッとだけ鼻を鳴らして、その後もひたすら無言で料理を食べ続けた。


裕子は直哉の嫉妬を素直に喜べなくなっているのを感じていた。


裕子の好物であるモッツァレラチーズの塊は、消しゴムのような味がした。






静か過ぎる二人のテーブルを、店員達が不思議そうに見ていた。



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