硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~

校庭の 桜の木の下で

高校の入学式。

式が終わって、
私は、桜の木を見上げて、
眺めていた。


【あ…、
中学の入学式の時も、
私、一人で
桜の木を眺めてたなぁ】

私は、思い出しながら、一人、そっと微笑む。


【そういえば……】

最近、
姿なき声を聞いていない事に気付く。

【やっぱり、幻聴か…
私、疲れてたのかなぁ】

私は、
桜の花びらのひとつひとつに目を移しながら、
あれきり、
耳にしていなかったことに、
遠い昔の
現実ではなく、夢か幻だったのかと、
忘れゆくのであった。


「桜、そんなに好きなの?」

【ん?
これは、現実の声?】

私は、無言のまま、
声のした方を向いた。

「あっ」

目の前に、
中学の入学式の時に、
私に声をかけた、
色白で、日本人離れの顔立ちをした、
私のファンだと変なことを言っていた、
あの男子がいた。


「あっ、
あの時の変な人だ」

私は、思わず、
思ったままを口に出した。

「えーっ?
変な人じゃないよー。
酷いなぁ」


【ん?あれ?】

私は、一瞬、
彼の顔が、誰かと重なった。

「あ!
貴方の顔、知ってる!」

「え?…
妙な言い方だなぁ…
えぇ、
知ってるでしょう。
会うの二回目ですから。
一度目は、私が一方的に知ってて、声をかけたんですけどね」

「うーん、
そうじゃなくて…」

顔立ちや雰囲気が、
日頃よく会っている人のような感覚になって、
私は、考えた。

【誰かに似てるのかなぁ…誰だ…思い出せない…】

私は、心の中でぶつぶつ言いながら、考えていた。


「一度目の時、
すみません。僕、自分の名前を言ってませんでしたよね」

「ん?あぁそうね。
そういえば、知らない」

「自分が、
花瀬さんを知っていたから、忘れてました。
改めまして、
七海 鋳(シュウ)です。
宜しく!」


【え?あっ、あー!
七海 龍星さんに、
似てるんだー】


この、
鋳という人に出会った方が先なのに、
七海 龍星に出会った時には、思う事も、
思い出す事も、全くなかったが。


【え?、七海?】

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