愛ノアイサツ
その日も僕は雪乃の病室を訪れていた。雪乃に途中買ってきたシュークリームを渡して、それを幸せそうにほおばる雪乃の顔を見ながら幸せに浸る。

「うぅ・・・そんなに見ないでください。」

「え、ごめん。あんまり幸せそうに食べてるから。」

「だってすっごくおいしいんですよ?って私ばっか食べてたら太っちゃうじゃないですか。城田さんも食べてください。」

「僕はいいよ。雪乃ちゃんに買ってきたんだから。」

ぷくって頬を膨らます仕草もかわいい。こんな表情を見られる自分は、少しは雪乃にとって特別な存在になれたのかな。

「もう少しでコンサートですね。最近疲れてないですか?」

「慣れたかな。曲はあらかた完成してきたんだけど、宣伝の仕事があってそっちの広報にここ最近手が回ってるんだ。」

「そうなんですか。」

そういうと、雪乃は少し寂しそうな顔をした。

「どうかした?」

「城田さん今よりもっと有名人になっちゃったらなかなか会いに来てくれないかなぁって思って・・・ごめんなさい、図々しいこと言っちゃいましたね。」

儚く笑う雪乃に今まで感じなかった暗い部分を見て、僕は雪乃の頭をポンポンとたたいた。

「僕は有名人なんかじゃないよ?ただの音楽家。どんなに忙しくったって来るさ。」

そういった僕の顔を力なく見て、いつもの彼女らしくないことを言った。

「だって私は、なんの取得もないじゃないですか。こんな体だし、病院の外からも出れない、何も知らない。城田さんは、私からしてみればずっと遠い人だから・・・。」

泣きそうな顔でそう言った雪乃の肩をぐっと引き寄せて、僕はその小さな体を自分の胸に抱きこんでいた。

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