今日から執事
新崎昴…。
『昴兄様っ!』
頭で早稀の声が木霊した。
早稀と一緒に会場を出て行った、あの男の事だ。
けれど、気をつけろとは一体どういう意味だろうか。
「何を知っていらっしゃるのですか」
静かに真斗が問うと、涼弥は口を苦々しく歪めた。
「俺からはこれだけしか言えない。
新崎昴は何を考えているか分かりかねる」
真斗に割り込む隙を与えず、涼弥は言葉を紡いだ。
紡がれた言葉は真斗の心に黒い靄を落とし、脳は先刻目にした早稀と昴の後ろ姿のイメージを映し出していた。
真斗が何も言わないことを、確認した涼弥はそのまま何を言わずに背を向けて去って行った。
真斗は暫く思案すると、強い意志を込めた瞳で顔を上げ、走り出した。