今日から執事


昴の肩の震えは次第に大きくなり、堪えた笑いは声と共に吐き出される。


「お前、俺のこと好きなんだろ?」


低く、嘲るように紡がれた声は一瞬で早綺を震え上がらせる。

初めて昴に対して感じた、怖いと言う感情に身体が支配され、脚に力が入らない。

壁に手をつき、地面を蹴り上げる様に力を入れなければ今にも倒れてしまいそうだ。

己の身体を叱咤し、顔を上げると、そこには残忍な笑みを浮かべ、喉の奥で笑っている秀麗な顔がある。


早綺の瞳には怯えの色。


「好きなんだろ。
なんなら今この場でキスでもしてやろうか?」


とても信じがたい言葉。

それは鋭く早綺の心を抉る。

何故?
どうしてそんな酷な事を言うのか。

問いたくても、渇ききった喉は呼吸をすることで手一杯で、思いは声にはならない。


けれど早綺の昴を見る瞳からは、はっきりと困惑と軽蔑、悲観がありありと分かる。

故に昴は気に入らない。

涙の一つでも見せれば、昴はこの手を引くというのに。

真正面から立ちはだかってくる早綺が憎い。
苛立つ。





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