今日から執事
絢音が歩いている間中、首元の何かを押さえている事を目敏くも見つけた真斗は絢音の首元を指差して言った。
「え…これ…」
絢音はそう言っただけで押さえているものを見せようとはしない。
小さい頃からずっと一緒に居て、遊んだり怒られたり同じ時間を共有してきたのに、隠し事をされたようで真斗は憤った。
これまで一度も絢音に嘘をつかれたことが無いだけにそのもどかしさは大きかった。
「見せろって」
雨で自分が濡れるのもお構いなしに手を伸ばす。
言うと同時に絢音が押さえていたものに手をかけると、思ったより簡単に取れた。
「あっ」
絢音の小さい叫びを無視し、何かを掴んだ手のひらを開く。
そこには雨の雫を受けて鈍く光るネックレスがあった。
シンプルな、けれど洗礼された鎖が幾重にも連なり小さな芸術を創り出していた。
「これ」
真斗は見覚えのあるネックレスを凝視する。
確かこれは絢音の母が身につけていたはず。
「…お母さんとお父さんが死んじゃった時、二人が手に握ってたって、おじさんが言ってた」
悲しくないはずないのに、絢音は無感動に言う。
それが痛々しくて真斗は無理やり奪ったことを悔やんだ。