Sin
「お前……シン……?」

女の人の口からこぼれた自分の名前。その瞬間、迷いが消えた。

「母さん!」

手を伸ばし、駆け寄る。

温かい抱擁を求める小さな手が母親に届くか届かないかの所で、シンの体は思い切り地面に叩き付けられた。



一瞬、何が起きたのかわからなかった。



左頬に痛みを感じ始めた時にはすでに母親が自分の上に馬乗りになっていて。なぜそうされているのかも分からなくて。

「母……」

自分を見下ろす目に恐怖を感じ、母親を呼ぶシンの声が消えた。

冷たい瞳にたぎる怒り。自分に向けられている憎しみ。

『死ねばいいのに』

振り上げられた母親の平手がシンの頬を打った。

「シン……お前が逃げ出したおかげであたしがどんな目にあったか知ってんの!?」

「っ、……あっ、……う、……」

言葉を挟む隙も無く叩かれる頬。次第に力が強くなる。

「お前が逃げ出したおかげであの男に金返せって付きまとわれて、返せないなら体で払えってこき使われて散々な目にあったんだ! どうやって償ってくれる!?」

まだ自分を愛してくれているかも知れないという微かな期待は、母親のその言葉に踏みにじられた。

平手で叩かれている頬が――言葉で踏みつけられた胸の奥が、痛い。

お願い母さん、止めて!

シンの目から溢れだした涙を見て母親は鼻で笑った。


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