Sin
シンを取り巻く環境は決して、全てが好転した訳ではなかった。

魚屋の店主は今でもシンを居ない者のように無視するし、肉屋の店主は店に入ろうとしただけで包丁を振りかざして怒鳴りつけた。

文房具屋のおばあさんはシンにだけわざと値段を倍にするし、本屋の店員はシンが触れた本をわざとらしくいちいち布で拭いた。

でも、シンは逃げなかった。

無視されてもきちんと挨拶し、機嫌を悪くした人には謝った。

嫌味な事をされてもやり返さず、かと言って下を向く事もしなかった。

そんな彼の姿を見て、態度を変えてくれた人も少しずつ増えた。

布屋のお姉さんはシンにセーターを編んでプレゼントしてくれた。シンは嬉しくて、冬の間毎日のようにそのセーターを着ていた。

八百屋の店主は今でもシンを孫のように可愛がってくれている。時々、シンが買いに行けない肉や薬を代わりに買いに行ってくれたりする。

花屋のおばあさんは相変わらず嫌みを言って来るけれど、今ではシンが切り返してくるのを楽しみにしている節がある。

「仲が良いのか悪いのか分からないな」

八百屋の店主が苦笑いすると、シンは自信たっぷりにこう言う。

「“嫌い嫌いも好きのうち”って言うだろ? きっと、おばあさん俺の事大好きなんだよ」


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