世界の説明書
しかし、射精とともに冷静さを取り戻した彼の心に一つの不安が重くのしかかってきた。そう、あの隠し撮りされたテープの存在だ。しかも、仮に自分が彼の言い付けを守ったとして、彼が約束を守るとは限らない。もし、あのビデオの少年があのテープを上司の垂れ込めば、彼は一瞬にして単なる一小市民に成り下がり、塀の中でまずい飯を食い、二度と死体に堂々と触れなれなくなり、人々はもう自分に尊敬と恐れの念を頂かなくなる。この制服を脱ぐという事はそういう事だと、彼は誰よりもその恐ろしさを理解していた。どうにかしなければ、やはりあの少年は殺すべきだ、と、ピンクの下着をむき出しにした水商売風の若い女性の死体の下半身を目で犯しながら彼は考えていた。殺すしかない。しかし、自分が殺せば、自分が捕まる。誰かに殺させるか、それとも殺してどこかに隠すか。このセカイから見えない場所に。どこか、遠くて、暗くて、寂しくて、セカイから忘れ去られた、そんな場所に。冷たくなっていく股間が彼の怒りを少し沈静した。この股間が喜び続ける限り、自分はセカイの悪に立ち向かっていけるのだと確信しながら、血まみれの青い制服の鉄の臭いを胸いっぱいに吸い込んだ。そんな彼の周りには沢山の報道カメラマン達が、慣れた顔でどうにかショッキングな死体の映像をカメラに収めようと躍起になっていた。
いまこの瞬間、この場にいる人間で、誰とも分からぬ他人の死体を見て、涙を流したり、世界を恨んだり、神に慈悲を求めようとする者は一人もいなかった。己の出世、名声の為に犯人を見つける証拠を探す警部、スクープの為に魂を悪にただで明け渡したカメラマン、権力の影で蠢く聖なる仮面を被った死体愛好家。顔の八割を斧で潰された少女の死体の唯一残った片目から涙が零れていた。その瞳はこう訴えていた。
なんで私は殺されなければいけなかったの、なんで、なんで私なの。私は何もしていない。
この世界は全てが狂っている。
いまこの瞬間、この場にいる人間で、誰とも分からぬ他人の死体を見て、涙を流したり、世界を恨んだり、神に慈悲を求めようとする者は一人もいなかった。己の出世、名声の為に犯人を見つける証拠を探す警部、スクープの為に魂を悪にただで明け渡したカメラマン、権力の影で蠢く聖なる仮面を被った死体愛好家。顔の八割を斧で潰された少女の死体の唯一残った片目から涙が零れていた。その瞳はこう訴えていた。
なんで私は殺されなければいけなかったの、なんで、なんで私なの。私は何もしていない。
この世界は全てが狂っている。