世界の説明書
 そういえば、あのドアの取っ手が壊れてしまった。もう一度、同じ場所に戻り、扉の場所を探したが、もうそこには扉なんてなくなっていた。ただ無慈悲な静寂と、果てしない闇が漂っているだけだった。僕はドアを探すのをあきらめた。だって、僕の願いは彼がもう、あの子に付きまとわない事。あの子は、あの子の人生を精一杯生きているだけなのに、何故あいつは、あんなにあの子を求めたのか。人知れず、努力し、彼女の家を探し、彼女と一緒になる為だけに、二人っきりになる為だけに、彼は彼の人生を捧げた。それを愛と呼ぶのか、、いやそんな崇高なものではなかった。愛、いや、案外、愛なんてそんな物かも知れない。 
トンネルからでると外は既に朝の香がしていた。あの茂みは薄い葉でしっかりと、トンネル内の惨劇を隠していた。朝日のみが唯一このトンネル内の変化だった。朝日を浴びたドラム缶から光を嫌う虫が、その裏側へとそそくさと隠れにいった。相変わらず太陽は僕に色を与えてはくれなかった。初めて話した人間が死んだ。また、僕が運命を変えてしまったのだろうか。運命を変える事って悪い事なのかな。それとも、僕の事まで運命は仲間に入れてくれたのかな。僕はこの世界の一部になれたのだろうか。この世界は、僕を必要としているのかな。いや、誰も何も期待していないだろうけど、僕は、あの子の為に生きている。そう、それだけで、いいんだ。僕はそれだけで生きていて楽しい。僕が僕を必要としている。僕がしたい事をするために、僕は存在しているんだ。僕は僕の為に、あの子を守る。僕が好きな事が出来る事、それが僕が生きているという事。
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