世界の説明書
 夏の終わりを告げる鳴き方の忙しい蝉が公園を独占していた。黒い大きな蝉にのっとられていた木々を今こそ自分の物にしようと必死に叫んでいた。名子が久々の学校を終えて、頬を若干赤く染めながら、校門から出てきた。夏休み中に正人と一緒に行った海で日焼けした肌が、名子の黒髪に負けじと最後の夏の太陽をいっぱいに浴びていた。正人は、校門で待つ名子に向かってゆっくり歩き出す。そろそろ通勤も電車から車に戻すかどうか、そんな事を考えながら。
正人の後ろの方から、いきなり、けたたましいブレーキ音が聞こえたのは、その一瞬すぐ後だった。 校門に向かって左側の歩道を歩く正人の横を斜めになりながら滑ってくる白いレッカー車。車を何も乗せていないレッカー車は、まるで白い大きな骸骨のようだった。あばら骨をいっぱいに開いた白い髑髏は崩れるように正人の横を通り過ぎ、そのまま、名子の立っている校門めがけて突っ込んだ。
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