世界の説明書
憂い


名子が小学5年生に上がったころ、盲学校のすぐ近くにある公園では桜が咲き始めていた。普段は暗い公園も、週末はたくさんの人で賑わっていた。まだ若干肌寒いせいか夕方になるとほとんどの人は適当に公園を散らかして姿を消していた。夜の桜は月の光だけを受けて薄紫色に光っていた。夜が紫だからか、桜が本当は紫なのか、、、と二郎は大分膨れ上がってきた自分の腹をこすりながら、夜の公園を楽しみにKITEITA.彼の狙いは女性用公衆トイレの汚物箱だ。そこで集めた物を近所の犬の餌に混ぜて食わせたり、近所で美人と評判のお姉さんの、自宅マンションの郵便箱の中に入れたりしていた。この公園は二郎の縄張りになっていた。公衆トイレから放たれる人間の臭い、社会が隠そうとする恥部が彼の大好物だった。彼は、表向きだけ綺麗に整えられている町や、人々、そういった全ての嘘吐き共に唾を吐きかけていた。下らない、嘘吐きの世界。どの女も、男も、虫も殺さない顔をしながら、便所で自我を一人で爆発させている。ぶりぶりと汚い愚痴を尻から吐き出し、一人その臭いに酔いしれる。誰もが見せかけの体裁を気にして、物事の真理を見ようとしない。奴等は盲目だ。自分を偽るから、偽りの世界しか愛せない。下らない。奴等は死ぬまで、何も見えない。臭ければ香水を巻き、自分の立場が危うくなれば嘘を吐く。なんて下劣で、愚かなのかと二郎は世界を憂いていた。
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