世界の説明書

黒い穴



　季節はあっという間に春を過ぎ、そしていつもの暑い夏が来た。相変わらず二郎の近所の公園はこの世界と縁を切った者達のサンクチュアリーだった。二郎は公園横の自動販売機で、缶ビールとビン詰めの日本酒を買った。二郎の計画はいよいよ実行される時が来たのだ。
　その日も、いつも通り明子は名子を学校まで迎えに行き、点字ブロックの上を歩く名子の横に守護霊のように寄り添って歩いていた。毎回この公園の横を通り過ぎる時に感じる胃がきりきりするような痛みにに囚われた時に、明子はいきなり一人の高校生らしき男に話しかけられた。


「すいません。あの、ちょっといいでしょうか。」

「は、はい、どうしました。」　明子はいきなり現れた大柄な黒いパーカーを着ている男に多少びっくりしながら答えた。内心、こんなの着ていて暑くは無いのか、といぶかしむ様な視線を彼に送りながら。

「実は、今、そこの公園の男子トイレに入ろうとしたら、目の不自由そうな男の人が何かを僕に伝えようとしてきたのですが、言っている事がよく解らなくて、どうしたらいいかと思っていた矢先にあなたが現れたので、もしかしたらと思って。でも、いきなりあなたに話してもどうしようもないですよね。すいません。」