世界の説明書
テント
その日彼は久しぶりに酒を飲んだ。あの天使のような少年が差し入れてくれた、むき出しのビンに青いラベルのはってある日本酒を3本。彼は久々に平和な気持ちになった。これで母親も大丈夫、他人の力だが初めての親孝行ができた。酒のめぐりもいい。人類皆裸。裸になって踊りだすべきだ。不思議と今日は飴が泣くともリラックスできていた。酒と扇風機のおかげだった。公園の隅っこで夢心地になっているホームレスを車の窓ごしに睨み付ける中年男性の運転するセダンが通り過ぎた。威嚇するようなテールランプが彼の横顔を照らしていた。
翌日の朝、彼は普段以上に重い頭を、全身をてこのようにして持ち上げ、静かな朝の公園を、母親のテントまで無意識のうちに歩いていった。水色のビニールシートのドアを開けると、しずかな扇風機の音が聞こえてくる。すーーー、静かな優しい音。精神を一定の感覚にさせるその音は、ある意味では静寂そのもだった。公園の脇を通る車の音以外に世界は音を発していなかった。そこには二人も人間が居るのに。
彼が静かな母親の顔を覗きこむと、ぽっかりと黒い穴が睨んでいた。一瞬、彼は嫌な感じに襲われた。約2分後、乾ききった母親の舌が珊瑚の矛のように自分に向けられているのに、彼は気付いた。母の顔は干からびていた。そういえば母が最後に水を飲んだのはいつだったか、彼は思い出せなかった。安心と思い出と不安と絶望が、それぞれを捲り合い、彼は激しい頭痛を感じた。彼の呼吸を、心臓が体内から殴り倒した。
その日彼は久しぶりに酒を飲んだ。あの天使のような少年が差し入れてくれた、むき出しのビンに青いラベルのはってある日本酒を3本。彼は久々に平和な気持ちになった。これで母親も大丈夫、他人の力だが初めての親孝行ができた。酒のめぐりもいい。人類皆裸。裸になって踊りだすべきだ。不思議と今日は飴が泣くともリラックスできていた。酒と扇風機のおかげだった。公園の隅っこで夢心地になっているホームレスを車の窓ごしに睨み付ける中年男性の運転するセダンが通り過ぎた。威嚇するようなテールランプが彼の横顔を照らしていた。
翌日の朝、彼は普段以上に重い頭を、全身をてこのようにして持ち上げ、静かな朝の公園を、母親のテントまで無意識のうちに歩いていった。水色のビニールシートのドアを開けると、しずかな扇風機の音が聞こえてくる。すーーー、静かな優しい音。精神を一定の感覚にさせるその音は、ある意味では静寂そのもだった。公園の脇を通る車の音以外に世界は音を発していなかった。そこには二人も人間が居るのに。
彼が静かな母親の顔を覗きこむと、ぽっかりと黒い穴が睨んでいた。一瞬、彼は嫌な感じに襲われた。約2分後、乾ききった母親の舌が珊瑚の矛のように自分に向けられているのに、彼は気付いた。母の顔は干からびていた。そういえば母が最後に水を飲んだのはいつだったか、彼は思い出せなかった。安心と思い出と不安と絶望が、それぞれを捲り合い、彼は激しい頭痛を感じた。彼の呼吸を、心臓が体内から殴り倒した。