世界の説明書
僕
僕の母親が動かなくなってから一ヶ月が過ぎた。僕は動かなくなった母親に、毎日話しかけていた。しかし、彼女は二度と彼に話しかけなかった。
「ママ、僕そろそろ町に出て見ようと思う。今までずっと我慢してきたんだもの。勿論ママとの約束を忘れた訳じゃないけど、でも、ママだって約束を破ったじゃないか。僕を一人にしないってあれほど言っていたのに。僕がこれだけ一生懸命に話かけているのに、ずっと黙ってる。どんな現象がママをそうさせているのか僕には解らない。でも、僕ももう子供じゃないんだ。一人でご飯だって作れるし、いきなり車が飛び出してきたって平気だい。毎日海で泳いで、浜辺を走って体を鍛えているもの。ママを守れるようにと思って頑張ってきたんだよ。ママの体が弱い事も知っていたよ。今まで本当にありがとう。昔パパが死んだ時と、いまのままの状態は一緒なんだよね?だったら昔ママがパパにしたように、僕もママを土に埋めなきゃ駄目なんでしょ。ママはその時すごく泣いていたよね。ママが泣いているのを初めて見たもの。僕もママが動かなくなった最初のほうは、毎日寂しくて泣いていたよ。でも、もうこれ以上は、このままではいけない気がするんだ。僕はもういかなくちゃ。ママは死んでしまったんだよね。死ぬって事は、動かなくなるって事だものね。僕はまだ、死んでいないから、動かなくちゃ。約束を破ってごめんなさい。そして、ママ、さようなら。」
僕は母親の体を公園裏の小高い岡の上に埋めた。直ぐに場所がわかるように一本大きな桜の木を選んで、その袂に母親をそっと埋葬した。そして、彼は町えと繰出した。
町は僕が思っていたよりもうるさくて、臭くて、野蛮だった。見た事も無いような大きな鉄の塊の中に人がぎゅうぎゅうに詰め込まれて二本のレールの上を悲鳴を上げながら走っている電車や、道を通る全ての人に、何かを渡そうと無機質に同じ言葉を機械の様に繰り返している人。誰もが心の中に戸惑いと、怒りを抱えているような煙たい町角。絶えず色を変える道路の司令塔。何もかもが複雑に変化していて、それでいてどこか一定で退屈な仕組み。
僕の母親が動かなくなってから一ヶ月が過ぎた。僕は動かなくなった母親に、毎日話しかけていた。しかし、彼女は二度と彼に話しかけなかった。
「ママ、僕そろそろ町に出て見ようと思う。今までずっと我慢してきたんだもの。勿論ママとの約束を忘れた訳じゃないけど、でも、ママだって約束を破ったじゃないか。僕を一人にしないってあれほど言っていたのに。僕がこれだけ一生懸命に話かけているのに、ずっと黙ってる。どんな現象がママをそうさせているのか僕には解らない。でも、僕ももう子供じゃないんだ。一人でご飯だって作れるし、いきなり車が飛び出してきたって平気だい。毎日海で泳いで、浜辺を走って体を鍛えているもの。ママを守れるようにと思って頑張ってきたんだよ。ママの体が弱い事も知っていたよ。今まで本当にありがとう。昔パパが死んだ時と、いまのままの状態は一緒なんだよね?だったら昔ママがパパにしたように、僕もママを土に埋めなきゃ駄目なんでしょ。ママはその時すごく泣いていたよね。ママが泣いているのを初めて見たもの。僕もママが動かなくなった最初のほうは、毎日寂しくて泣いていたよ。でも、もうこれ以上は、このままではいけない気がするんだ。僕はもういかなくちゃ。ママは死んでしまったんだよね。死ぬって事は、動かなくなるって事だものね。僕はまだ、死んでいないから、動かなくちゃ。約束を破ってごめんなさい。そして、ママ、さようなら。」
僕は母親の体を公園裏の小高い岡の上に埋めた。直ぐに場所がわかるように一本大きな桜の木を選んで、その袂に母親をそっと埋葬した。そして、彼は町えと繰出した。
町は僕が思っていたよりもうるさくて、臭くて、野蛮だった。見た事も無いような大きな鉄の塊の中に人がぎゅうぎゅうに詰め込まれて二本のレールの上を悲鳴を上げながら走っている電車や、道を通る全ての人に、何かを渡そうと無機質に同じ言葉を機械の様に繰り返している人。誰もが心の中に戸惑いと、怒りを抱えているような煙たい町角。絶えず色を変える道路の司令塔。何もかもが複雑に変化していて、それでいてどこか一定で退屈な仕組み。