いばら姫




黒光りする乗用車の列んだ
玄関先を抜け、中門を出て

かなり昔に、祖母が趣味で作った
もう殆ど手入れもされていない
小さな温室に向かう



白の塗装が
だいぶ禿げてしまった椅子に座り
スーツのポケットから
携帯を出し、写真のフォルダを開いた



「…やっぱり アズかわいいな…」


ちょっと呟いて
また携帯をしまう



年始のドタバタが明けたら
電話してみよう

…メールで新年の挨拶は送ったけど
型通りの言葉の羅列だけで
少し淋しかった



――― 造り笑いと
雪と重い屋敷の空気に
埋もれてしまう日常


その闇が小さな頃から嫌で
外に出られない季節は
テレビばかり


朝と夕方にやっている
動物が暴れ回り、明るいド派手な
外国のアニメが大好きで――


初めて見た映画は
金曜ロードショーの
"ポリスマン・アカデミー"

自分で借りて
初めて見た映画は
"バックトゥーザフューチャー"



真夜中のムービーSHOWで
"ポレットの別荘"をキッカケに
フランス、イタリア映画や

日本の時代劇みたいに
かなりのお約束だけど
ダンスとジェットコースターな展開の
インド映画にハマッて―――

そこで当たり前に
映画を撮ってみたい衝動が生まれたけど

同時に
平和で娯楽を楽しめる国なのに
この島国ほど
映画の撮りづらい国も無い事を知る

まず一般じゃ、街での撮影の
許可が取れない

そして封鎖的な縦社会―――



そして最近は
沢山の若手を求めたコンテストが
少し多くなって来たけど
それは苦労して
一線に出て来た人達の動き




< 203 / 752 >

この作品をシェア

pagetop