いばら姫





挨拶騒動も終わった祖父の屋敷には
親戚、知人一同

赤い絹が引かれた長椅子が庭に

お手伝いさんも
いつもの倍は居て

酒や料理の追加
ばんじゅうを運んだり
暴れ始めた子供達の面倒をみたり
忙しく走り回っている



その喧騒から離れて
部屋で休む祖父の部屋で
少しだけ話をした


去年の電話の礼

だけど逆に

"…あの子の事を
ずっと心配していた

久しぶりに話が出来て元気が出た

もう少し頑張って
長生きする気力が出たよ"と
逆に礼を言われてしまった





祖父の代からずっと家にいる
お手伝いのハナさんに
少しだけ、話を聞いてみる


―― 親戚の家を
たらい回しにされていた少女

河原で良く泣いているのをみかけ
ハナさんは、
当時は外にあった炊事場に少女を呼び
内緒でご飯を食べさせていた


それを祖父に見られて――

叱られると思った

けれど祖父は
自分の部屋からコンペイトウと
映画雑誌を持って来て
彼女に渡した


それが二人の出会いで

彼女は大きくなると
――走り始めた新幹線
東京に行って、女優になりたいと
夢を抱く様になる


やっと役に立つまで育った働き手に
そんな許可を与える養父では無く
酷い折檻の末
彼女は夢を見るのはやめようとした


――― 彼女を塔から出したのは祖父

一度は天使になった彼女だけれど
地上の毒に塗れて
いつしか別の者に変わって行き

…… それでも
翼をくれた者の事は
忘れていなくて―――





そんな事を考えて
廊下の隅で、タバコを吸う

日本庭園には、網の被された
鯉の居る池

雪は綺麗に掃かれていて
晴天の空に、
どこかから琴の音が響いていた



――― そろそろ
また場所を移動しないと
見合いを薦める
自称遠縁とか言ってるオバチャンに
捕まってしまう


少し前までは
嫁なんか誰でもいいし

…親父が見合いしなかった分
俺が皆の気に入る嫁を貰えば
色々楽になるんだろうなと
見合い結婚しても構わなかった


―― だけど






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