いばら姫





いきなり風呂には入れない
とにかく空気を暖める

ヒーターは勿論ついていて
台所前にある石油ストーブも動かした

「アズ!玄関つったってないで入れ!」


「…それ渡しに、来ただけだから」


「……これ何よ 」


何も書いていない
銀色のDVD



「…"教室BAROQUE"のDVD…
焼いて貰って…

当分販売されないらしいし
こっちで…やらないから…」



――唖然とする


「…… それだけの為…に…?」


「…うん…
淳、ものすごく
見たがってたし… 」






―――――― 参った




白い吐息と ――

白い雪の絡まった琥珀色の髪先と
碧に染まった、伏せた睫毛

落ちてくる水滴に濡れて
唇だけが、誘う様に紅い



アズのコートについていた雪が溶け
丸く青い透明の粒になって床に転がり

かじかんで震える 細い指先は
上下する胸元で 握られている





「…今、飲む物入れるから
こっちに…」




――― それは数秒

俺が部屋の奥に入って
バスタオルを持って来る迄の間


ゆっくり閉まる
玄関のドアの隙間



――― アズの姿は忽然と
玄関先から消えていた








< 231 / 752 >

この作品をシェア

pagetop