いばら姫





ここは
仕事情報誌で見つけたDVD工場

あの部屋も出て
阿尾森市内に、小さなアパートを借りた


――― 家を出たいと言ったのは
アズが訪ねて来た、少し後



親父は予想に反して
激しい怒声を浴びせて来たし
母親とも
生まれて初めての言い合いをし
驚いた弟が、
部屋から出てくる位の騒動で――




少しながら、貯金はある

部屋の目星はつけていたし
地元に居るまま働いても
結局『岡田の坊ちゃん』で
終わってしまう


弟に促されて、祖父の元へ


家を借りるにあたって保証人が要る
それは祖父が、
頼む前に引き受けてくれた

条件は 一ヶ月に一度は
祖父に連絡を入れる事


新しい部屋には
幾枚かの気に入っている服と靴
ビデオとDVDやCD
日用品を運び入れて
狭いながらも、気に入った空間に出来た





「岡田君 少しは慣れたかい?」

「ぼちぼちです 」

「仕事覚えるの早いし
腰に気をつけながら
お互いゆっくりやろうや 」と


面接をした時に居た
工場長の原崎さんが
煙草を吸い、笑いながら、
俺の腰を軽く叩く



事務のお姉さんやおばちゃんを除けば
男ばかりの仕事場

飲食店にしようか迷ったが
―― 別に商品をすぐその場で
見られる訳では無いんだけど
映画のジャケットが身の回りにあると
かなり働いていても
楽しいんじゃないかとここにした


明るい人が多いし
仕事中も、工場内には音楽がかかってる

それに近場に
いいロケーションがあって、
その景色を撮るのにも都合がいい―――



…… 自分が家を出る気になるなんて
自分でも本当に驚いた


でも 俺は
アズと 約束したんだ



――― 自分の足で立って
自信のついた自分で
お前の横に 立ちたいと――――







< 234 / 752 >

この作品をシェア

pagetop