いばら姫



…気を使って貰ったものの
実はあまり、腹は減っていない


マスタードが、かなり辛いらしく
灰谷は咳込んで
流し込む様に、短時間で食い終わった




―― 十字の交差部分
交通の激しくなった夕暮れの道

舗道とを隔てるガードに座って
やはり何か催し事があるのか
だんだん増えて来た、仮装行列を見送る


そのプラカードを持った流れに
視線を向けたのは、灰谷も同じで


けれどいきなり ―――

まるでステージに立った時の様に
ガラリと表情を変えて

地面に潰した紙コップを投げ捨てると
ガードを飛び越え
信号が変わるのも見ずに道を渡った



「 灰谷?! 」


クラクションが激しく鳴らされ
スピードを落とした、車のボンネットに
片手を付き、跳ね
それでも渡る事を止めない



――― 渡り切った舗道上で
灰谷は男の首元を締め上げ
何か大声で怒鳴っている


そんな姿を見たのは初めてで
俺も慌てて
たまたま傍に居た人に
ホットドックとコーヒーを渡した


ジーンズに
煤けたセーターを一枚だけ着た
金髪碧眼の彼は、一瞬驚いていたけど

慌てた俺が、身振り手振りで
スタンドとホットドックを指差しながら

「This... Poison is not!

…先を急ぐって何だっけか
ええーとfast..
I'm...hurry on one's way!」


脇に、レッスン用なのか
かなり痛んだ靴底を併せ
紐で巻いたトウシューズを挟み

「 … When one god deserts you,
another will pick you up.

―― God breath you, 」と
赤くなった鼻にシワを寄せて
にこやかに笑う


そんな彼に会釈して
ちょうどグリーンに変わった信号を
全速力で走った ――







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