いばら姫
雑踏の中に、姿を探す
――すぐに横道から
白い息を荒げた灰谷の目が見えて
その背には楽器
黒く使い込まれた、
ソフトケースに入った何かが
厚手のコートに皺を作って、
背負われて居た
「 お前! なにやって…! 」
『 …これ、青山さんのベースだよ 』
「 ―――― 何処で 」
『 … 道に落ちていて、拾った
そう言ってた
ゴミを集積する場所、決まってないし
窓や扉の外に出したのを
夜中に回収車が集めに来るのが
この辺のシステム
… こっちの奴は
ミュージシャンを目指す云々抜きの
標準装備で、楽器は家にあったりするし
これが今、高値で売れる事、知ってたよ 』
「 な…中身も見ないで、
違ったらどうするんだ?! 」
『 …違わない
何なら中、開けてみて
… 裏に、これを産んだ、
ヒューイマロウ氏の直筆サインと
"01"ってシリアルが入ってる筈
少し移動してからね
…さっきの奴が帰って来たら
面倒だから』
ネック部分の天辺で閉じられた
大振りのジッパーを、静かに開ける
黒い革ストラップが着いたままの
太く、かなり長いネック部分と
丸みを帯びたボディの繋ぎ目の裏に
隅を、四つのビスで留められた
銀のプレート
そこにはGUREX "01"と刻印され
すぐ下には、"Huey Malva"と
木に直接手彫りされ、
塗装を塗った状態のサインが、
透けた感じでそこにあった
ケース横のポケットには
音叉と、長いシールド
かなり小さなドライバーセットと
眼鏡拭きの様な小さな布
そして、
青山のサインらしき印刷がされた
青いピックが、ポロリと落ちて来た
「 … 青山の…だな 」
『 …そう 』
「――― けど、何でだ…?
水谷は、
このベースが欲しかったんだろう?! 」