いばら姫







「俺は右に行く!
あず、みつけたら」

「わかってる 」

携帯を示して合図すると
頷いて、新原は逆の道へと走りだした




――― 正直
俺も東京の道はわからない





けれど、アズが直接
"奴"に会いたければ
誰かに一言 言づてれば済む事


だから
…もっと別の何か

『何処か』なんだろうと思う





一本だけ立った水銀柱

ダリの絵みたいな
古いマンションの、アーチの影


ふいに出た道の
そこは三差路で





その真ん中で

黒いキャップを被り
黒いTシャツの影が
明かりを避ける様に、看板の陰

苦しそうに独り、しゃがみ込んでいる


けれど、
辺りを見回してから、瞳を見据え
再びダッシュを開始した







――――アズ

アズは一回
突き当たりの

もうCLOSEしてしまった美容室
小さな工業ビルが集まる道に
入ってしまって


少し怖かったのか
慌てて踵を返して
逆に走っていったのが見えた



―――また別の方向から
追い縋る足音




夜だと言うのに、かなり暑くて
背中に汗が流れた

俺も、ずっと走ってる






アズがまた
分かれ道に差し掛かって
辺りを見回した



―――オンラインでもそう

知らない道は
とりあえず闇雲に走って
分岐で迷ったり



だけど

楽しんで道を探す
あの空間とは違う―――



アズは
目的を持って
建物を見ながら、

泣き出す寸前の
子供みたいな顔をして
必死に何処かを捜している


広範囲から、追い込まれ始めて

四方八方から
足音に囲まれ始めた時





つい、『 アホ! 』と
叫んでしまっていて



―――名前を呼ぶわけにはいかないし

もっと別に
言い方もあったんだろうけど







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