いばら姫



しばらく歩いて
他のビルより、一個頭が高い
比較的新しめのマンションを見つけた

「…アズ、 ここか…? 」


―― アズは首を横に振る



入口は閉じられていて
中には入れそうにないが
最上階まで続く、非常階段がある

… コソコソせず
さもここの住人みたいに、裏口へ回った


見咎められても、こっちは男女二人
"非常階段でこっそり
彼女といちゃついてました〜。"
それで済む



「――ここ、上がるよ」




コトン、コトンと
アズは足を少し、引きずっている


「…痛めたか…? 」


アズはそれに答えず
手摺りにつかまりながら
暗闇の、足場の見えない階段

最上階まではかなりあったけれど
その間、終始無言で

アズの粗い吐息だけが、俺の先を昇った




一番てっぺん
小さな踊り場に着く

風が吹いて来ていたけど
周囲には四角いビルだけで

木とか、草はらとか――
それを確認出来る自然物は、何も無かった


…オンラインゲームの環境より下だな




両手で手摺りを握り、体を押付ける様に
周りを見詰めていたアズの反応が

ある方向を見て、ガタリと止まった


―――― そのまま乗り出して
飛び降りそうに見えて焦る


キャップが取れて、長い髪が
翼の様に 背を舞ったからの錯覚――


手摺りから引き剥がして
ドアにぶつかる様に、二人倒れた



俺の両足の間

力任せに抱きしめているのに
痛いとも苦しいとも言わず、
されるがままのアズ

――― 幾ら強く抱きしめても

その息が荒くなる事も
顎を退いたままの唇が
俺を求める事も無い――



……俺の傍に今まで居た女は

誰もかれも、
俺に"何か"をして欲しがって寄って来た


だけどこいつは

―― 何も求めて来ない

むしろ 俺が居る事を
ウザがって居る様にも見える


俺が持っている全ての中に

アズにとっては何ひとつ必要な物は
ないのかもしれない―――





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