この心臓が錆びるまで
俺には、ベッドなんて無用な存在でしかない。
「寝てみたかっただけです」
「……そういうもんなのか?」
「眠ってるときは、辛いことも苦しいことも忘れられるんでしょ?」
そんなに素晴らしい機能を、何故つけてくれなかったのか。
「……越智 薺」
少しの沈黙の後に響いた言葉に、俺は閉じていた瞼を上げた。身体をゆっくり起こして、視界を邪魔する髪を掻き上げる。
「彼女が、なんですか?」
自分でも驚くほどの不機嫌な声に、棗さんはくつくつと笑った。彼の薄い唇は、いびつに吊り上がる。
「越智 薺、15歳。1年B組3番の保健室登校者。身長153センチ体重43キログラム、8月14日生まれの獅子座のO型。生れつき心臓病を抱えており過去に4度の入退院を繰り返している。親は7年前に交通事故で他界。現在は、その後直ぐに高卒で自動車の下請け会社へと就いた、兄である越智 楓(カエデ)と二人で暮らしている」
感情のないたんたんとした口調で有無を言わさず続けた棗さんは、持っていた一枚の紙を手から離した。