この心臓が錆びるまで


 カーテンを閉めて、部屋の明かりを消す。反対側のソファーにはお兄ちゃんと、翠。お兄ちゃんが、16本の蝋燭に火を点していく。

 ゆらゆらと揺らめく炎と、淡い橙を含む翠の瞳。見つめていると、視線が交わってひどく優しく微笑まれた。それだけで高鳴る心臓。

 だめだ、違う意味で息が苦しい。

 約一月会わなかっただけで、免疫が無くなってしまったようだ。部屋が暗くて良かった、赤い顔が見られなくてすむ。


「できた」


 お兄ちゃんの言葉を合図に、翠が息を吸って、誕生日の歌を口ずさむ。静かな室内に、翠の歌声だけが響く。

 何故だろう、泣きそうだ。

 今にも決壊しそうな涙腺をギリギリのところで保って、今日のことを、この瞬間のことを忘れないようにと、翠の歌声と表情を脳裏に焼き付けた。


「誕生日おめでとう、薺」


 歌が終わって、お兄ちゃんが優しく笑う。私も、精一杯の笑顔を返してやった。

 なんて、幸せなんだろうか。


「一発で消せよ」
「まかせて!」


 大きく息を吸う、揺れる16個の炎に向かって、私はすべての力を振り絞るようにして息を吹き掛けた。


< 60 / 60 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:8

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

く ち び る
くず子/著

総文字数/49,036

恋愛(その他)116ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「お前の唇、うまそう」 嘘を吐く唇 愛を紡ぐ唇 弧を描く唇 死を導く唇 Twitter発 / 「唇」企画 さあ、召し上がれ 【レビュー感謝】 紗宇様
有馬さんは宇宙人
くず子/著

総文字数/18,684

青春・友情40ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「地球は狙われている」 「へー、大変なんだね」 電波少女の有馬さんと 無気力少年の夏目くん ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ツッコミ不在な彼らの 超マイペースな恋事情 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ( 開始 2011/11/18~ )
オトコイ[詩集]
くず子/著

総文字数/932

詩・短歌・俳句・川柳10ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
下ネタは男の 代名詞である ┌素敵レビュー感謝┐ │はにい様·八紬様│ │ しのきるか様 │ │ 名古屋ゆりあ様 │ └────────┘

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop