†Devil Kiss†

望み

*    *    *


ここはパリから少し離れた小さな村。



その村から、もうちょっと外れにある家に住む少女が、今日も村の買い物帰りに、ある男に捕まっていた。



「素敵ですね。でもその話はまたの機会に聞かせて下さい」


「それもそうですね。これで貴女に会える口実になりますし」



もう会いたくないわよ。



歯の浮くようなセリフを残し去っていったのは



この村の村長の息子の
フィデール・ベルモンド。



いい年をして親のすねかじりの我儘男。



ローズもうんざりしていた。



村に来ればいつも引き止められ、長い時間足止めを食らう。


それを嫌がれば、周囲から



「あ、いたわ。あの子」


「あぁ、変り者の」


「そうそう。フィデール様に好かれているのに、嬉しがらないなんて、なんて変り者かしら」



あんな人、好きになれる人の気持ちがわからないわ。



疲れを感じながら肩を下げ家に帰ると



弟が駆け寄ってきた。



「お姉ちゃん、お帰り!」


「ただいま、エリック」




目がなくなってしまうぐらいにニッコリ笑って出迎えるのは可愛いたった一人の弟のエリックだ。



「お姉ちゃん、またご本を呼んで」


「えぇ、いいわよ。持って追いで」



エリックはすぐに奥の部屋に駆け込んでいった。




ローズは知らないが、村人たちの間でいつも言われていることがもう一つある。




『村一番の美人の彼女を一体誰が妻にするのだろうと』




変り者だが、美人には変わりない。ローズは知らないが


村の男たちは、ローズが村に買い物に来るたびに気を引き締めているのだ。




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