君が好き
 碧は居ても立ってもいられなくなり、病院の外へ駆け出した。
 うまく動かない足を引きずりながら走り回った。そして、ようやく木の陰がかかったベンチで、いつものように歌っている美雨の姿を見つけることができた。
 碧は美雨の目の前へ飛び出した。涙でくしゃくしゃになった顔が突然現れ、美雨は思わず笑った。
「ごめんなさい。凄い勢いで出てくるから」
美雨は笑いながら一言詫びた。碧もつられるように少し笑った。
 碧は涙を拭うと、一息ついた。美雨もまた、呼吸を整えた。
「看護婦さんから、お父さんのことを聞いた」
碧は目を伏せた。
 美雨は優しい目で碧を見た。
「私の思いとあなたの過去は別の出来事ね」
「でも、それでも…… ごめん」
碧の言葉を聞いて、美雨は哀しい顔をした。父親のことを思い出したからだけではなく、もう一つのことが胸を締め付けた。
 美雨は碧の顔を上げようと、一歩近づいた。しかし、足がもつれ、碧にもたれかかるように倒れた。
「美雨ちゃん?」
慌てて碧が美雨の身体を仰向けにすると、美雨は鼻血を垂らしながら気を失っていた。
 美雨の身体は人一倍冷たく感じた。
「美雨ちゃん? ……誰か。誰か」
金切り声を上げる碧を見て、他の患者を散歩させていた数人の看護婦が駆けてきた。
 すぐさま美雨は担架で運ばれた。
 碧は目を丸くしたまま手を振るわせた。
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