君が好き
 二人が籍を入れてから半年以上が経過した。美雨のお腹は大きく膨らみ、出産を間近に控えていた。
 美雨の病状は落ち着き、奇跡的に回復の兆候さえ見られると医者は驚きを浮かべた。
 碧は家で買い物袋を開くと、赤ん坊用の服を広げた。
「華蓮、可愛らしい服だよ」
碧はソファーに腰掛ける美雨のお腹に話しかけた。
お腹の子は期待通り女の子だった。
 二人は早々と名前を決めると、女の子用の物を買い揃えた。
「早く逢いたいな」
美雨は優しい顔をして、お腹を擦った。
 美雨の体調は優れている様子で、出産に対する望みが溢れた。
(きっと、大丈夫)
碧は美雨の横に腰掛けると、手を握った。
 柔らかい日差しが空間を包んだ。
 二人は目を合わせると、満面に笑みを浮かべた。
「んっ……」
美雨の顔が歪んだ。
 予定日は二ヶ月先だった。
 碧は美雨の発作と思い、急いで病気の薬を手に取った。
「ううん」
美雨は首を何度も横に振ると、お腹を押さえた。
 碧はどうすればよいかわからず、目を泳がせた。
「病院……」
「う、うん」
碧は促されるままに車を廻すと、美雨を乗せた。
 病院に着くと、美雨は直ちに分娩室へ運ばれた。
「美雨と子供をお願いします」
碧はすがる様に看護婦にお願いした。
 碧は出産に立ち会うために服を着替えた。
「美雨」
碧は終始手を握り、声を掛けた。
 美雨が分娩室に入って、十時間が経った。付き添っている医師は何度も美雨の体調を確かめ、最悪の事態に備えた。
 美雨は言葉にならない声を何度も発していた。
「もう少し、もう少しだからね」
産婆の言葉を聞き、美雨は一生懸命力を入れた。
 美雨は力強く碧の手を握った。碧は、大丈夫と何度も声を掛けながら、美雨の額の汗を拭いた。
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