危険な誘惑にくちづけを
「まあ、最初のウチは。
 気に入った、パテシェのデコレーションを真似して、練習してみるといい。
 春陽には、誰か手本にしたいヤツは、いないか?」

 大笑いを引っこめて、真面目くさって言う、紫音に。

 わたしも、また、真面目に言った。

「えっと。
 ……村崎 音雪(むらさき おとゆき)?」

 自分の本名を呼ばれて、紫音は、ちょっと目を見開いた。

「……そいつは、ダメだ」

「ええ~~なんで?」

 わたしが、ぷう、と頬を膨らますと、紫音が笑う。

「そいつはまだ、本当に駆け出しで。
 作風に安定性が、まったくないからだ。
 調子のいい時と悪い時にものすごい差が出るから、ダメ」

「うう……」

「世の中には、もっともっと上手いヤツ奴が山ほどいる。
 最近、春陽も色々なケーキ屋をめぐって、実習しているんだろう?
 だれか、これはすごい、と思った奴はいないか?」

「……いる」

 紫音に言われてすぐ。

 一人、頭に浮かんだヒトがいた。

「えっと、ウチの学校に時々臨時講師でやってくる。
『パ・トゥ・シャ』っていうケーキ屋さんの……」

「……風ノ塚 隼人(かぜのつか はやと)?」

「そう!」

 すぐに出てくる、紫音の言葉にびっくりして。

 今度は、わたしの方が、目を見開いた。
 

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