危険な誘惑にくちづけを
「ねぇ、春陽ちゃ……」

「だから、ダメって言ってるでしょう?
 わたしには、好きなヒトがいるって……!」

 授業中なのに!

 今にも手を取りかねない、佐倉君を振り払うようにして、小声で叫ぶ。

 ……絶対にありえない、胸の高鳴りを無視するために。

 なのに。

 強く否定するわたしを見透かして、佐倉君は、囁いた。

「……信じないから」

「……佐倉君」

「春陽ちゃんに、そんな彼氏がいるなんて。
 オイラ、この目で見ないと、信じてやらないから」

「……佐倉君!」

 佐倉君は、自分のきらめく瞳を、あやしく細く絞って、わたしの目を覗き込むように言った。

「そんなヤツが、本当にいるのなら、オイラに会わせてよ?」

 本当に見て、納得したら諦めるから、と佐倉君は言った。

 でも、紫音は。

 明日の朝には、もう、フランスへ旅出ってしまうから。

 本当のコトを言うと、大事な時間を誰にも邪魔にされたくなかった……けれど。

 あり得ないハズの、この胸の高鳴り……ううん。

 ただ、騒いでるだけの、変な気持をそのままにしたまま。

 紫音と別れている間に、佐倉君に『好き』なんていわれるのが、嫌だった。
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