危険な誘惑にくちづけを
 そして。

 なんだ、たいしたコトないじゃんって言う佐倉君の言葉に。

 紫音は、一気に不機嫌そうな顔になった。

 確かに。

 今の紫音は、そんなにカッコ良くない。

 緩い、部屋着兼用のスウェットを着て。

 ウチに来てから一度も剃ってないヒゲをそのままに。

 髪だって、手ぐしで解いたぐらいだし……

 でも、一番カッコ良くない所は。

 肩から、ぱんぱんになったエコバックを下げて。

 そこから、大根とネギが飛び出している所かもしれない。

 それでも。

 ガッコの先生モードの時よりも、だいぶマシだったし。

 何よりも。

 紫音が一番自然でリラックスしている感じがして、好きなのに!

 わたしが何か言う前に、水島が佐倉君をどやしつけた。

「何、失礼なコト言ってんのよ、アンタは!
 春陽の彼氏さんでしょうが!
 年上で、しかも初対面だってのにっ!」

 このヒト、本当にお莫迦なんで、ごめんなさいっと、アタマを下げる水島を見て。

 紫音は、目を見開いて、叫びかけた。

「ゆっ……!」

「……は?」

 うぁ……

 やっぱり!!

 水島、由香里さんに、似ているんだ……!

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