危険な誘惑にくちづけを
 多分、本当は『由香里』って叫びたかったはずの言葉を。

 わたしのために飲み込んで、紫音は、ため息をついた。

 ワケが判らず、クビを傾げる水島に。

 いや、何でもない、とクビを振り。

 紫音は、改めて、わたしを見た。

「……それで?」

 本当は、わたしの方が聞きたいコトが、あったのに。

 突然、連れて来た立場上、しどろもどろに説明した。

 もちろん、佐倉君の言い分なんて、話せなかったけど。

 水島って言う女の子がいたから、良かったかもしれない。

 製菓学校での、仲いいコ達って言う説明に、紫音は、納得して頷いた。

「ふーん。
 それで、風ノ塚が自分でラッピングまでしてくれたのか?」

「見て、風ノ塚先生だって、すぐ判るんですか!?」

「まあな」

 驚いた水島に紫音は、素っ気なく肩をすくめて、わたしに言った。

「……良かったら、夕飯を食って行ってもらえ。
 俺が作るから」

「……え?」

 その提案に、私はびっくりして聞き返した。

 学校の先生、とか。

 ホストとか。

 ヒトと関わる職業についていたけれど。

 素顔の紫音は、あまり他人といることが得意じゃない。

 だから。

 わたしが友達を連れてきても。

 すぐ帰せ、みたいなことを言うのかと思ったのに。
 

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