運命なんて信じない。

chance



ウェンズは、つっ立ったまま石像のように微動だにしません。


サリはどうして良いか分からず、目に涙を溜めながら


「……ウェ…ンズ………?」


消え入りそうな、か細い声で呼び掛けました。


その声に反応して、ウェンズがサリの方を見ます。


「――――ッ」


サリは溢れそうになる涙を、唇を噛んで堪えなければなりませんでした。


振り向いた彼は、驚く程無表情で。



いつも笑顔を絶やさず、表情豊かな彼を見ていたサリには……彼の表情が信じられなくて。


それと同時に、自分と彼の関係が壊れてしまった事を実感させられたからです。



「なぁ」



彼がフッと微笑んで近づいてきました。
相変わらず目だけは笑っていません。



出会ってから今までに、何度呼び掛けられたでしょう。


この短い時間のうちで何度この声の持ち主に……彼に助けられたでしょう。



肉体的にも、精神的にも。



彼のブーツの足音だけが、嫌に部屋に響きます。




< 35 / 71 >

この作品をシェア

pagetop