不器用なLOVER
見上げると辰おじさんは真っ直ぐ私を見て言った。

「彼と過ごした日を自慢しなさい彼はいずれ世界中に名を轟かす」

「えっ?」

辰おじさんは微笑を残して去って行った。

その後ろ姿を暫く見つめ、
私は駆け出した。

「待って!」

呼び掛けに立ち止まり振り返る。

「何?」

眉一つ動かさずに。

ホントは私が聞きたいことなんて分かってるはずなんだ。

出逢った頃の無表情の仮面を、
張り付ける彼は明らかに拒否を
示しているので私も何も言えずに黙ってしまった。

「用がないなら行くよ?」

再び歩き出す後に続いた。

「…グランドこっちじゃないよ?どこ行くの?」

一瞥だけして前方に向き直す。

「グランドに戻っても意味がないからね。
来週からのボランティアの内容や割振を決めておく必要があるでしょ」

透弥さんはいつも私の先を行く。

ボランティア活動が決まったのはついさっきの出来事なのに。

「…全員参加なんて不満が出ないかな?」

私の心配を軽く受け止めて、

「強制力は持たないけど恐らくは誰一人一日の欠席者も出ないだろうね。
各自が上に立つという意味を理解してるから」

淡々と告げる。

「連帯責任を促してる訳ではないんだよ。
人の上に立つということは責任が増すということだからね。
下の責任を上が被る。
つまりはそういった意識付け…」

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