不器用なLOVER
「ありがとう…ございます」

一応お礼をと思ったのに

「鍵締めたかったから…」

それだけ言って、
歩き出した、
その背中を見つめる。

立ち止まり、
振り返る、
無表情の彼。

「置いてくよ?」

「…えっ」

驚いて聞き返す。

「…一緒に行ってもいいの?」

眼鏡を指先でクイッと上げ、
無表情のまま

「迷子を無視できない」

迷子って…。
どうしてわかるのかな?
?を浮かべながら近付く。

「…転校生でしょ」

またまた、どうしてわかるの?

「…朝、理事長と職員室にいたから」

ああ
納得です。

…ってことは、
あの時助けてくれた人

「朝はありがとうございました」

「君は、理事長の親戚?」

話をそらされた?

「いえ、理事長は父の友人で、
…小さい頃からよくしてもらってるんです」

「…そう」

それだけ
聞いておいて一言って…。

「あと、迷子なんかじゃありませんから…」

嘘…。
強がりです。

「…別にいいけど」

そのまま無言で歩く。

沈黙が辛いかも…。
何か話さなきゃ…。

「あの…、前の学校は普通の公立だったので、この学校には距離があるような気がして…」

言っといて、
しまったと思った。
この人もブルジョアだ。
顔色を窺う…。
表情が読み取れない。

「何?」

不意をついて目が合う。

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