不器用なLOVER
「曲目は大体…」

そこまで言って漸く私だと気付き止まった。

「里中さん?…会長は?」

それに応えるように私の手ごとノブを引き透弥さんが招き入れた。

副会長は室内に入りながら横目で私を見ている。

確かに生徒会委員でもないただの生徒である私が、会長室に居たら怪しまれても仕方ないけど。
露骨過ぎて何と無く感じ悪い。
かといって説明するのも変だ。
言い訳みたいに聞こえるし。
第一何て言えばいいの?

副会長からの視線をそらすためにうつ向く。

その様子を見ていた透弥さんが、

「何?」

デスクに戻り副会長を促す。

その声に体を反応させ向き直り、

「曲目の編集大体終わりました。後夜祭のダンスは今年もワルツとタンゴ中心でいいでしょうか?
チャチャチャもリクエストが有りますが?」

事務的な顔に戻っている。

「チャチャチャか…。
それは外していい」

少し考えてから返事をする透弥さんに、

「ではそうします。それから招待客リストと招待状の件は…」

言い終わらない前に、
箱に詰めた封筒の束とその上に紙の束を置き、足元から掬い上げて差し出す。

「郵送しておいて。リストと席順表も目を通しておいて欲しい」

「仕事が早いですね」

それを受取り副会長は一礼して、踵を返した。

去り際私をチラッと見て、

「仕事さえして頂けば構いませんよ」

通りすがり小さく呟いた。

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