イナフ ー失われた物語ー 【小説】
拒絶されて私は思い知った
微かに
生きようとしていたことを
無意識に
救いを求めていたことを
でもそれは
自分の中の奥深くに封印した
微かな願いだった
微かな期待と意志は
暴力的な拒絶と支配によって
もうそれ以上私が何を望んでも
完全に無駄なことを思い知らされた
あの日だ
海に入って死にかけたあの時
あの抱きしめられた身体の温かさが
絶望と諦めで塗り固めた心の壁に
僅かに亀裂を入れてしまった
その亀裂から私は見てしまった
求めていたことを
心が凍えて死にかけていたことを
倒錯した担当医が
私の心を動かしたわけではないのだ
あの温かさの替わりを
無意識に求めた…悪魔に
肉体に心が寄り掛かった
ただの松葉杖
だったはず
だが無意識に求めた
その残酷さだけが
激しい絶望として打ち込まれた
みぞおちに叩きこまれた拳のように
息が止まりうめき声すら出ないほど
心の奥ではこんなにも求め
そしてこんなにも失われたまま
諦めまで失い
期待すら奪われた
ひとはこんなにも
何かにすがらなければ
生きてはいけないのだろうか
こんなにも…
今なら
死ねるだろうか?
気力さえあれば?
終わらせられるのだろうか?
それが答えだろうか
それ以外に
答えなど
あるのだろう…か…