三日月の雫
携帯ショップでアドレスのデータを移し代えた後、かんなは僕の目の前で「もう必要ないでしょ?」と柚羽の番号を消去した。


なにも考えずに、ボタンをひとつ押すだけで簡単に連絡できていた。

だから柚羽の番号なんて記憶の片隅にもなかった。


簡単に連絡できたように、僕たちの関係も、ボタンひとつで簡単に絶たれる。

むなしい思いを抱えながら、僕は柚羽の番号が消去された携帯をかんなから受け取った。




「永輝くん!国道行こうぜ!」



僕を少しでも元気づけようと、遼太郎は頻繁に誘ってきた。

かんなは、僕がもう裏切ることなんてないと余裕の表情で送り出した。



「永輝くん、携帯変えたんだね」



助手席で僕の携帯を触りながら遼太郎が言う。



「うん。高かったぞ」

「……姉さんとお揃い?」
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