三日月の雫

・マリッジリング・


陽射しが柔らかくなり、暖かい空気が流れ出す。

春の訪れを知らせる桜のつぼみ。

陽気な季節。

街を行き交う人々はコートを脱ぎ捨て、誰もがどことなく嬉しそうな顔をしていた。



「やっぱり新機種ってのは高いわねぇ」



窓を少し開けた僕の車の中。

助手席に座るかんなは、さっき買ったばかりの新機種の携帯をいじっている。



「帰ったら説明書とにらめっこだわ」

「オレもだ」



携帯を、解約した。

柚羽との唯一の連絡手段。


解約を促したのはかんなの方だった。

僕には拒否することもできず、素直に受け入れた。

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