三日月の雫

・暴走への序章・

かんなに嘘をついて、柚羽と過ごした短い時間。

朝方に帰った僕を、かんなは疑いもしなかった。

むしろ、「お疲れさまでした」と、最後のバイトを終えた僕に労いの言葉をかけた。



建設会社に復職し、家に帰ればかんなの姿。

生活は、柚羽と出会う前に戻った。



「もうすぐクリスマスねぇ」



ただでさえ狭い部屋に、かんなが嬉しそうにバカでかいクリスマスツリーを飾った。


柚羽と出会った秋が終わり、冬がやって来た。

あれ以来、柚羽のアパートには行っていない。

携帯に登録された電話番号。

この番号を押してしまったら、僕はもう自分を抑えることができなくなるかもしれない。



「そうそう。明後日ね、お兄ちゃんが帰ってくるわよ」



ツリーの飾りつけをする手を止めて、かんなが言った。

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