ラビリンスの回廊
ただ呟いただけのはずだったが、意外にも近くで返事があった。
「ここは、シェル王国です」
それは、感情も抑揚もない、ただの単語の羅列のようなものだった。
いつでも動ける体勢をとりつつ、玲奈は声のした方を振り返った。
そこには、14、5歳くらいの女の子が、傘をさして立っていた。
明るい栗色をした髪─恐らく地毛と思われる─をひっつめ、そばかすの目立つ平凡な顔立ち。
そんな中、瞳は、やけに存在感のあるエメラルドグリーンだった。
服装は、いわゆるメイド服と言われる類いのもののようだが、デザインは至ってシンプルだ。
彼女は玲奈に、開いた傘を差し出した。
「お初にお目にかかります。
本日只今より、姫様の世話役を務めさせて頂きます、エマと申します」
にこりともしないエマに、玲奈はどうしたらいいかわからず、差し出された傘を払いのけ、ただただ彼女を睨み付けた。
そんな不躾ともいえる玲奈の強い視線にたじろぐ素振りも見せず、エマは再び傘を差し出して言った。
「ここにいては風邪をひきます。
シェル城にご案内します」