ラビリンスの回廊


玲奈はそれを、自分の髪のことだと思った。


しかしルクトの続けた言葉で、そうでなかったと知る。


「そっか……
エマ、気に病むなよ?
お前のせいじゃない」


そう言って、ぽん、とエマの頭に大きな掌を乗せた。


髪が染められないのも、隠す手段がフードしかないのも、エマのせいになるはずもないし、彼女が気に病む原因にもなり得ない。


それなのに、どこか自分を責めているようなエマに、ルクトはもう一度繰り返した。


無言の二度の所作に、エマはされるがままになっていた。


されるのを許容しているというよりも、それを振り払うことでルクトの心が痛むのを恐れているかのようだった。


「……まぁ、染めらんねぇなら仕方ねぇよ、ホント」


ベンス兄妹の間に流れた空気は、穏やかであり、思いやりに溢れている。

居心地が良いようでありながら、なんとなくムズムズとする。

そんなふうに感じながら、玲奈はそう言った。



しかし、とルクトがエマの頭から手をどけ、口を開く。


「ヴァンくんは色々と勘付いてそうだねぇ。
弱ったなぁ……」


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