ラビリンスの回廊


そろそろと玲奈を担ぎ上げ、ルクトが一歩足を踏み出した途端、ヴァンから冷たい空気が流れて来ているような錯覚が広がった。


「お待ち下さい」


先ほどとは打って変わった低く重い声に、思わずルクトの足が止まる。


それほどまでに、ヴァンの声には強制力があった。


ヴァンはイシュトに視線を置きつつ、ルクトとエマに意識と言葉を向けた。


「こちらの非礼は詫びましょう。
アレの話もここでは出来ないのもわかります。
そして、見ず知らずの我々に警戒をしていることも。
しかし、あなた方の国を救うためなのです……」


「は?オレたちの国……ってシェル王国を?」


尋ねたルクトの声に反応するかのように、ピクリとイシュトの瞼が動いた。


それを見て口を閉ざしたヴァンに、そして変わらず玲奈を抱えたルクトに、エマは言った。


「場所を移しましょう」


ヴァンは溜め息をついてイシュトを見た。


懐から、チャプチャプと音のする容器を笑顔で取り出し、そっと傾けて数滴、イシュトにかける。


ん、と眉がひそめられたのを見て、どぱっとかけた。


「つめてぇ!!」


跳ね起きたイシュトに、ヴァンが微笑んだ。


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