やさぐれ妊婦

友人一家の転勤は旦那さんの会社の事業縮小に伴う異動だった。

彼女もまた、とてもとても疲れていたのだ。

やんちゃざかりの子どもの世話、経済的な不安、やるせない苛立ち……。

私は返す言葉が見つからずじっと俯いた。

友人もしばらく口をつぐんだままだった。

息のつまるような沈黙の中、私はぎこちなく冷め切ったお茶を一口すすった。

重苦しい沈黙を破ったのは友人だった。

「ごめん」

「えっ」

「今の八つ当たり。ごめんね」

「私のほうこそ、なんかごめん」

私たちは顔を見合わせて苦笑した。

「お茶、入れなおそっか」

「うん、ありがとう」

それから私たちは温かいお茶を飲みながら、とりとめのない話をした。

出産や育児、仕事やお金、そういう話題は二人ともいっさい口にはしなかった。

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