AEVE ENDING
「救助を」
揺れが収まった途端、ササリは立ち上がって走り出した。
恐らくは箱舟連盟へと連絡に行ったのだろう。
表向きの事務処理はササリに任せるとして、問題は倫子だ。
(…まさか、近距離でアレを浴びてないだろうな?)
雲雀の能力はただでさえ倫子の体には毒になる。
最近は波長を合わせることを覚えたらしいが、この爆発の規模は尋常じゃない。
(堪えられるか…?雲雀くんが正気を保っていれば希望もあるが)
この圧力は規格外だ。
あまりにも、重い。
(下手したら、またあの姿に…)
あのバケモノじみた姿などもう、思い出したくない。
『おくだ、…』
枯れた声など、もう聞きたくない。
あの歪な天空はなにを示すのか。
(―――神よ)
あの憐れな少女を、もう二度と泣かせてくれるな。
「兄様、…!」
真鶸が泣き声で叫んだ。
ゆるりと彼方から響く気配に背筋が凍る。
(…これはもう、桐生ひとりに向けられたものではない)
莫大な能力が放出されている。
世界を破壊するほどのこれは、底無しの穴だ。
あの場所を支点に、世界を飲み込む気か。
(―――幾田桐生…)
一体なにを、望んでいるのか。
(バカヤローが)
希望ある子等に、なにを背負わせようと云う。
(アミ…)
なにより大切なものを、また理不尽に奪う気か。
「真鶸くん、君は部屋に戻ってて。君のニイやんは必ず連れて帰るから」
今にも泣き出しそうな少年の頭を撫でながら、必死に笑んで見せる。
倫子にさんざ出来損ないと笑われた微笑が、今は彼に優しく映ればと願いながら。
そして、直ぐ様あの場へ向かおうとすれば―――。
「僕も…僕も行きます!兄様と倫子さんを放ってなんて、…!」
悲鳴染みた高い声が響く。
腕に纏わりつく真鶸の頬は、ぼろぼろと流れた涙で濡れ、ただ必死に訴えていた。
「君を連れてったら、俺が雲雀くんに殺されるよ」
第一、倫子よりずっと頑丈で精巧とはいえ、真鶸も試験体のひとりなのだ。
あれを浴びてどうなるか、予測すらできない。