AEVE ENDING








慶造は溜め息を吐き、そうして改めて問う。


―――では、彼女は?







「…どうすればいいか、わからないと言っていたよ」

殺すべき相手は、憎むべき相手は、永遠にあるものだと信じてきたのに。


(―――橘…)

桐生を失った時の、あの無気力な、眼差し。




「桐生が消えた今、橘に危険は及ばない。アダムとして箱舟で生きるより、彼女は家に還したほうがいいかもしれない。……人として生き、人として死んだほうが、彼女にはきっと優しい」


―――橘倫子。

欲望の中心に巻き込まれた、憐れな贄。

自身を暗闇の中へと引きずり込んだ男の呆気ない幕閉じに、彼女はなにを思ったのだろうか。


「橘は、家に還すよ。…僕から離れれば、あのふたりからも逃れられるからね」

桐生が死して尚、雲雀の養父母にあたる者達は倫子を消し去ろうとするのだろう。
欲深い魔手から守るために、箱舟に置かれていた彼女を。

家族を手にかけた彼女を、早く、早く暖かな優しさの中へ。

―――たとえ僕から、遠く離れてしまっても。








「…君は、それでいいのかね、雲雀」


彼女が、僕の心臓だとしても。


「…愚問だよ」

彼女が優しい世界に戻れるなら、己の欲望など殺してみせる。

朽ちるまで触れられないとしても、毎日、君の夢を見ることにする。


(君は、僕の)







< 1,103 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop