AEVE ENDING






―――一年後。






「きれいだなあ…」

ぽつりと真鶸が漏らした言葉に、倫子は苦笑する。

鏡に映る純白のドレスは確かに綺麗で、高潔だ。

けれどなにより、この日を待ちわびていたその顔が、今日一番のメインになるだろうと思う。


「倫子さん、綺麗ですね…」

少しだけ涙ぐんだ真鶸の頭を撫でる。
さらり、開け放った窓から吹く風に、雲雀が揃えたドレスと白い花が添えられたベールが揺れた。

相変わらず薄い翳りの雲は、けれど純白を反射する程度には役に立つ。
雨続きの日々だったが、今日という祝いの日には止んでくれた。


「そういえば、新郎のほうはもう終わったの?」
「はい!花嫁の準備を今か今かと待ちわびてますよ!」

問えば、真鶸が嬉しげに笑う。
相変わらず可愛いらしいが、ここ一年で随分と身長も伸び、大人びた。

なにせあのアナセスを恋の虜にするくらいなのだ。

真鶸はいい男になる。とは、兄馬鹿の意見。

そんな弟分の成長に微笑みつつ、倫子はもう一度、鏡を見た。

そこに映る純粋な白は、相変わらず緊張が解けずガチガチになっている。

けれどそれがいいのだと、真鶸は兄と同じ顔をして笑って見せた。

ドレスと同様、白亜のこの部屋は花嫁を殊更に美しく引き立てているようで、眩しい。






―――コンコン。


そうして扉のノックが鳴らされる。


―――コンコンコンコンコンッ!

どうやら新郎が待ちきれずに、花嫁を見に来たらしい。
性急に叩かれるノック音にはやるせないほどの待ちきれなさが滲み出ていた。

「真鶸」

言えば、真鶸は楽しくて仕方ないと言うように叩かれ続ける扉へと走っていった。
その後ろ姿を眺めながら、噛み締める幸せ。





「―――アミっ!」


バシーン。

扉が数ミリ開いた途端、新郎は真鶸を突き飛ばして部屋へと飛び込んできた。
いつものよれた白衣姿ではなく、やはりこちらも、雲雀が見立てた純白の新郎服を身に付けている。

いつもよりずっとフォーマルに決めた奥田たきお、二十九歳。
十離れた若妻を嫁に迎え、三十路寸前のゴールインである。

涎を垂らさんばかりに歓喜して花嫁に抱きついた様は、年甲斐もなく、大変気持ち悪かった、とは、後の倫子の弁。





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