AEVE ENDING





歩み寄ってきた倫子に、真醍は不信感を抱いていた。

無表情に近い顔で、震える声など出しはしない。
ただ、先程の真醍と同じように、「事実」を口にしているだけ―――の筈なのだ。


けれど。
なにを、そんなに。



「なにに、腹を立てているの」

真醍の疑問を代弁したのは雲雀だった。
予想だにしなかった乱入者に、やる気などとうに失せている。

「…別に」

倫子は言葉とは裏腹に、不機嫌を露わにしつつ高々と頭上に聳える城を見ていた。
その横顔は、自分を見やる男二人の存在など完全に眼中にない。

苛立たしげに、いや、そんな言葉じゃ足りないほど。
それほど鋭く、見据えているのは。

「…研究は、中止された筈なのに」

ぼそりと吐き出されたそれは、波音に掻き消されそうなほどか弱いそれだった。
恐らくは、掻き消してしまいたかったに違いない。


「…橘」

けれど、なんの因果か。
真醍の耳にも雲雀の耳にも、消え入る前に届いてしまった。

「どうして君が、そんなこと知ってるの?」

雲雀の咎めるような声に、鋭く城を見据えていた倫子がはっと我に返った。

「───…、」

ひく、と小さな肩が震えるのが見える。
薄闇の天下で、放心したように視線をさ迷わせて、やがて俯いた。


「…橘」

息を飲む音が聞こえて、先程とは打って変わって普通の女と化した倫子を雲雀が制す。
ゆっくりと、まるで脅えているように雲雀の方に視線を向けた倫子は、冷や汗を掻きながらもニヘラと笑った。

誤魔化しているつもりだろうか。バカなやつ。


「…そんな話、僕でも初耳なのに。秘密裏に行われた研究とやらを、どうして君が知っているの?」

完全に責めの体勢に入った雲雀に、倫子が戸惑うように一歩、後退った。

「俺も気になるなぁ。秘密裏の研究を知ってるってこたぁ、じゃあアンタは関係者か?」

つい口を挟んだ真醍を、倫子は苛立たしげに睨み付けてきた。
雲雀への態度とは随分な差だ。




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