AEVE ENDING






(…なに、これ)

見たこともない荒野だらけの田舎に、この西部箱舟より薄明かるい空、貧しそうな人間達。
侘びしい飯に、汚れた教室で学ぶ級友達の姿――見知った顔もあった――確か、アミ、とか言う女子。

そして、恐らく倫子の両親であろう成人した男女と、五人の幼子。



(───ねーちゃん。あの柿、取って)
(駄目。この柿の木になる実は食べちゃ駄目なの)
(なんでぇ)
(地面の下の毒を吸ってるから、食べたら死ぬよ)
(ええー!)
(でも食ーべーたーいー)
(やかましい!死にたいなら姉ちゃん別にとめないけど!)
(やー!死にたくない)
(ねーちゃんのバカー!)
(オイコラ!こっちは注意してやってんのに、馬鹿とはなんだ馬鹿とは!)

かしましい倫子の声と、はしゃぐ子供達の、声。

(野生児…)

野端に生えた木の実を取って食べるなどしたことのない雲雀には、倫子が狼に育てられた女に見えた。

その間も、倫子の記憶は飛びに飛び、雲雀は息を詰める。
自分が抱えている思考を全て把握できないどこかへ流されてしまいそうな感覚。
人一人分の膨大な記憶に、さすがの雲雀も目眩を覚えた。



(―――君は、陰性だから…)

ボツボツ。
ノイズが入り出した。
この辺りは、倫子の記憶が曖昧なのだろう。

(───この施設では、能力開発に勤めてもらうことになる)

箱舟に連行された時?
しかし脳髄に映される男達は箱舟の教員達でも、国の派遣員でもない。
白衣を纏った──そう、北の島で発見した研究者達のようだ。

チリチリとこめかみが痛み出した。
許容量を越え始めているのか、雲雀は精神的な痛みに眉を顰める。

しかし次に現れたそれに、その痛みも忘れ、雲雀はその双眸を見開いた。

じっとり汗ばんだ掌が自分のもののように感じられる。
視界に映る、大きなマスクを着用した白衣の男達。
眼球を焼く強烈なライトが、間接的に雲雀を焼いた。


「───…っ」

キシリ。

強烈な目眩に、思わずバランスを崩す。
膨大な情報量を一気に流し込まれた脳は処理が追いつかず、危険信号を発していた。

しかし倫子の体から未だ離れずにいる手は、その膨大な情報量を容赦なく雲雀に流し込む。





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