AEVE ENDING






「なにもんとか可愛い子ぶってんの?そんなんでかわせないから」

だから早く、と奥田の肩を叩いて促した。

「…俺、ドライな子供は嫌いだな」

そんな私に、奥田は大人げなくふいとそっぽを向く。

「はいはい。それに、生徒を遅刻させないのも先生のお仕事だと思うよ」

と、フォローしてやったのに。

「俺、保健医だもん」

だからもんて。
甘えたこと言ってんじゃねーぞコラ。
二十七歳、独身、奥田たきお。お前はまだ自分が若者だとでも思っているのか。

「保健医でも立派な先生でしょ。ほら早く」

私の強引な催促に、奥田は仕方ねぇなあ、と頭を掻いて瞼を閉じた。
その何気ない仕種を目視した瞬間、じわりと空気の流れが変わる。

まるで水の中に居るような、遥か彼方で耳鳴りを感じる感覚。
他人の能力の、波動と呼吸。



「…教室には、いないね」

瞼を落としたまま、奥田はぽつりと呟いた。

傍目には瞼を閉じて突っ立っているだけに見えるが、どうやらもう「捜索」に入ってるらしい。

やはり変態とはいえ、立派なアダムである。
一瞬で集中力を高めて何千、何万という空間に触手を伸ばせるなんて、さすがだ。

(…なにせ人間の捜索行為は、ハイクラスのサイコキネシスに分類される。向き不向きの問題じゃないくらい、難しいから)

高位のアダムなら、繊細な触手のようなエネルギーが発散されてるのを脳で視ることができるらしい。

私にはただピリピリと、周りの空気が振動してるのだけは解る。
これは人間でも感じ取れる最低レベルの感受性。

だって私は、落ちこぼれだからね。



「…っかしいな。あいつ、箱船ん中にいねーよ?」
「はあ?」

奥田の言葉に、思わず変な声が出た。
だって一緒に行こうと約束したのに。

「ちょい待ち。外も視てやっから」

私の焦燥を感じ取ったのか、奥田は瞼を閉じたまま私の頭を撫でた。
箱船の中に居ないってことは、一足先にアミは海に出たってことだ。

つまり私一人で遅刻。
遅刻者は、私一人。

言い換えてみても事実は変わりそうにない。




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